グアダラハラ到着から3日目、路線バスで近郊のトラケパケ(Tlaquepaque 現在はサン・ペドロ・トラケパケ San Pedro Tlaquepaque)(1)を訪問した。トラケパケは、陶芸やガラス細工などの民芸品で有名な町で、グアダラハラ大都市圏(Zona Metropolitana de Guadalajara)を構成している。滞在していたホテルのあるグアダラハラ市中心街(centro)から、バス停をさがして、路線バスで行った。
旧スペイン植民地の多くの町には、中心に四角形の中央広場と、その隣り合う2つの辺に政庁と教会があるのが普通である。しかし、トラケパケは1つの市(municipio)ではあるが、このようにはなっていないようである。中央広場らしきものは、イダルゴ公園(Jardín Hidalgo)で、サン・ペドロ教区教会(Parroquia de San Pedro)、また、孤独の聖母聖堂(Santuario de la Soledad)が周りにあるものの、市の政庁(Presidencia Municipal)は、少し離れたところにある。
イダルゴ公園
サン・ペドロ教区教会
孤独の聖母聖堂(Santuario de la Soledad)は、18世紀から建設され、ラテラノ教会堂(Basílica Lateranense)という称号をバチカンの法王庁から得ているとのことで、教会入口にはこの称号が掲げられていた。
孤独の聖母聖堂
孤独の聖母聖堂の中央祭壇
歩行者用道路(andador)になっているインデペンデンシア街(Calle Independencia)には、いくつかのベンチがあり、等身大のオブジェが置かれていた。
骸骨の隣りに座っているのは筆者
トラケパケへ行った翌々日、バスターミナル(Antigua Central Camionera)から出るバスで、グアダラハラから約60kmのところにあるテキーラ村(Tequila)を訪問した。メキシコの代表的な蒸留酒テキーラは、この村で生産されたためテキーラと呼ばれる。村の周囲にはテキーラの原料となるリュウゼツラン(agave 竜舌蘭)(2)の畑が広がっている。ここは「リュウゼツランの景観とテキーラの古くからの産業施設群」(Paisaje de agaves y antiguas instalaciones industriales de Tequila)という名でユネスコの世界遺産に登録(2006年)されている。
ユネスコのサイトには、次のような説明がある。
テキーラ火山(volcán de Tequila)の山並みとグランデ川(Río Grande)の間の約3万5千ヘクタールの土地が登録領域で、広大なリュウゼツランの畑を構成している。これは16世紀からテキーラ酒を造るのに使われている植物で、少なくとも2000年前から発酵酒が生産され繊維が衣類に利用されてきた。19、20世紀にテキーラ酒の消費が世界中に増えたことにより、いくつかの醸造所がこの地で稼動するようになった。今日リュウゼツランの耕作は、メキシコの国としてのアイデンティティの固有の要素のひとつと考えられている。世界遺産として登録されているのは、リュウゼツラン畑とテキーラ、アレナル(Arenal)、アマティトゥラン(Amatitlán)の各村にある醸造所を含んでいる。醸造所では、リュウゼツランの葉を根元で切って残る巨大な松ぼっくりに似た部分(piña)から絞った液汁を発酵させてアルコールを醸造する。さらにこの辺りで西暦200年から900年に栄えたテウチトゥラン文化(Teuchitlán)の考古学遺跡群(段々畑、住居、寺院、墳墓、球技場)も含まれている。
https://whc.unesco.org/en/list/1209
リュウゼツラン畑。バスの車窓から。
テキーラ村の名前は、ナワトル語のTecuilanあるいはTequillanからで、これは、tequi(切る)あるいはtequitl(仕事)に場所を示す接尾辞-(tl)lanが付いていて、「切る場所」「働く所」を意味するようである。村には、テキーラの酒造会社で伝統あるホセ・クエルボ(José Cuervo)の工場があり、工場見学ガイドツアーを開催している(3)。村を散策しているときに、別の会社の見学の誘いも受けたが、我々はこれらの工場には行かないで、テキーラ国立博物館(Museo Nacional del Tequila)を見学した。比較的小さな、植民地時代様式の屋敷の中に、リュウゼツランを収穫する鎌などの農具、テキーラ醸造用の樽、テキーラの瓶やラベル、それに中庭に搾り木などが展示してあった。他にホルヘ・パラシオ(Jorge Palacios)という彫刻家の仮面の展示もあった。
テキーラ国立博物館の中庭にある昔のリュウゼツラン搾り器。クリスマス・年末年始の飾りとしてポインセチアが飾られている。ポインセチアはメキシコ・中米原産の植物で、スペイン語名は「クリスマスイブ(の花)」という意味の(flor de) Nochebuenaである。
昔、1971-72年に留学生としてメキシコに滞在した時にテキーラの飲み方を教えてもらった。片方の手の人差し指と親指で、4分の1ほどに切ってあるライム(limón)を持ち、その手の上にのせた塩をなめ、ライムを口でくわえるようにして果汁を口に含み、それからもう一方の手に持ったグラスのテキーラを一口飲む、と記憶している(4)。塩やライムの果汁でつばが出てアルコール度の高いテキーラが薄まって飲むことができるのだと思う。
リュウゼツランで作る酒の名で一般的なのは、他にメスカル(mezcal)とプルケ(pulque)がある。テキーラとメスカルは蒸留酒で、材料のリュウゼツランの種類が異なるとのこと(5)。プルケはリュウゼツランの別の部分を発酵させたものだが、蒸留はしてないので白く濁っている。
テキーラ村では、市場(mercado)で昼食を食べた。
市場での昼食
テキーラ村の中のトルティーリャ(tortilla)を作っていた家。通りすがりに道路から少し見ていたら、写真を撮るようにと手招きしてくれた。