キューバにある世界遺産の一つ「ビニャーレス渓谷」(Valle de Viñales)への日帰りツアーに参加した。1日目のハバナ市旧市街見学後ホテルに帰った時、ロビーにデスクを置く現地旅行会社Gaviota tours(カモメ・ツアー)で翌日のスペイン語によるツアーを申し込むことができた。パンフレットには一人55クック(CUC 兌換ペソ)と印刷してあるけど、値上がりしたと言われ59クック(両替したレートで約4800円)×2、計118クックを払った。朝8時から夕方7時までのツアーとのこと。
バスが迎えに来ると言われた朝7時50分にホテル玄関で待った。しかしなかなか来ない。8時25分にやっとバスが来て乗り込む。大型のバス(パンフレットにómnibusとある)で、先客は、メキシコ、イタリア、ベネズエラ、ドミニカ共和国からの人たちで、アジア人は我々夫婦二人のみである。ガイドがノイさん、ドライバーがフェルナンドさんと紹介を受ける。
1時間40分ぐらい走った後、バスが停まり、トイレ休憩となった。軽食や喫茶のあるかやぶきの店に行く。周りは田園風景が広がり、ヤシの木がところどころ立っている。池もあり、真ん中のあずまやに行く桟橋もある。ツアーのパンフレットに Breve parada en Las Barrigonas, ranchón rodeado por típicas casas campesinas y plantaciones de tabaco.(典型的な農民の家とタバコ農園に囲まれたラス・バリゴナス、ranchónでしばし休憩)と記載してある。Las Barrigonas(お腹が大きい女性たち)が店の名前だということはわかったが、ranchónの語の意味が辞書で確認できない。「かやぶきの軽食堂・喫茶店」を意味するようである。Las Barrigonasの名は、あるサイトによると、かやぶきの柱に、palma barrigonaという名のヤシの木の一種(キューバ固有種のヤシ科植物。幹が地上2, 3mのところで他の部分より2倍くらい膨らんでいる)を使っていることから命名されたことのようである。写真を見るとこの付近に立っているヤシの木は、幹が途中だけ太い。
barrigonaという名のヤシの木
近くにある池
30分弱走り、ピナール・デル・リオ(Pinar del Río)州の州都ピナール・デル・リオ市に入った。メキシコなど中南米の町と同じような町並みが続く。20世紀初めに立てられたネオゴシック・モーロ様式で目を引くグアシ宮殿(Palacio de Guasch 自然科学博物館 Museo de Ciencias Naturalesが入っている)の横を通り、グアヤビータ・デル・ピナール・ラム酒工場(destilería de ron)を訪問した。1階建てでそれほど大きくない建物である。グアヤビータ(guayabita del Pinar)というのは、このピナール地方でのみ栽培されるグアバ(guayaba)の一種で、この実から抽出したアルコールを加えた香りが良いラム酒がここでしか販売してない特産品とのことである。見学後の販売所で試飲をさせてくれた。ただ当方、酒飲みの方ではなく、他のラム酒や酒類との特別な違いはわからなかった。
同市では、葉巻工場も見学した。入口でカメラやバッグなどを預けさせられ、手荷物は一切持って入れなかった。比較的大きな部屋の中で、大勢の男女が各人机の前に座って、タバコの葉を机の上に広げ、その上に手を当ててこするような手つきで巻いていた。一方の壁際に柵があり、壁と柵の間を見学者が歩きながら見学する。見学が終るところにはお決まりの販売所がある。タバコなど生涯口にしたことがないし、レストランも全面禁煙のところでしか食事しないので、もちろん買わない。
その後ピナール・デル・リオ市の市街を離れ、次の目的地インディオの洞窟(Cueva del Indio)へ向かう。
ピナール・デル・リオ市内のグアシ宮殿
ラム酒工場前の町並み
インディオの洞窟(Cueva del Indio)の近くのレストランで昼食となる。Almuerzo criollo(クリオーリョ料理の昼食)とパンフレットにある。サラダ、ゆでたジャガイモ、焼いた豚肉・牛肉・鳥肉、黒豆を炊き込んだご飯(moros)からなるキューバ料理のお昼を食べた。同行の女性客の一人が途中で購入したアボガド(aguacate)を切って皆に配ってくれた。おいしいアボガドだった。
昼食
近くの散策用道標: Sendero Cueva del Indio(インディオの洞窟の小道)、 Paseo a Pie 200 metros(徒歩での散策 200m)、 Paseo en Bote 225 metros(ボートでの散策 225m)、 Duración del Recorrido 25 minutos(一周25分) と書いてある
ビニャーレス渓谷にはいくつもの洞窟があるそうである。その中の一つインディオの洞窟(1)は、歩いて洞窟の中に入り、ボートに乗って、地中の川を進むことができる。地中の川は、サン・ビセンテ川(río San Vicente)という名が付いている。1920年に発見されるも、一般に公開されたのは60年代からである。植民地時代にこの地方の農園で働かせるためアフリカから連れてこられた奴隷が、逃亡して隠れ家としてこれらの洞窟を使っていたそうである。
ビニャーレス渓谷に限らずキューバなどの洞窟には、スペイン人が来る以前の時代の洞窟壁画が発見されていて、このインディオの洞窟にも洞窟壁画や考古学遺物が見つかったとのことである。数艘に別れて乗ったボートによる我々の見学では、洞窟壁画を見ることはできず、鍾乳石や床に積もった石筍を見るのみであった。
次の見学場所「先史時代の壁画」(Mural de la Prehistoria)へ行く。インディオの洞窟を見た後なので、洞窟で見ることができなかった先史時代に描かれた壁画を見ることができると思ったのであるが、先史時代を描いた壁画のことだった。周囲は広い緑地になっていて、観光客相手に乗馬させる人がいて、売店、レストランなどがある。
メキシコの有名な(壁)画家ディエゴ・リベーラ(Diego Rivera)の弟子だったことのあるキューバ人のレオビヒルド・グレス(Leovigildo Glez)の指揮の下、1960年から1964年に、描かれたもの。自然の小山の壁面から草木を取り除く作業から始め、計18人の労働者がたずさわって描かれた、高さ120m、横幅180mの巨大な壁画である。この地域から化石(fósil)や先史時代に人が住んでいたという証拠が発見されたという報告が1959年にあったことによりこの壁画の構想が始まったとのことである。
恐竜、アンモナイトなどの動物や人のシルエットが描かれたカラフルな巨大な壁画である。ただメキシコの壁画のような物語を感じることはできない。野ざらしの小山(mogote)の岩壁に描かれているものなので塗り直したりすることが必要だそうだ。
300m程の高さのドーム型小山(mogotes)があちこちにある農園風景が美しいということがビニャーレス渓谷の売りである。この風景の中で、牛で耕し人力でタバコ栽培をするという伝統的な農法がユネスコの文化遺産として認められたのである。この風景と洞窟があることから、キューバ国の自然文化財(Monumento Nacional Natural)としても指定されている。その構成要素の一つの小山にこのような壁画を描くというのは、いかがなものかと思った。
「先史時代の壁画」
我々のツアーのバス
またバスに乗り込んで、短時間移動し、タバコ農家(Casa del Veguero)を訪問した。屋根と壁をカヤでふいた小屋に入った。中には人の身長ぐらいまでの何段かの木の棚が作ってあり、そこに収穫したタバコの葉を並べ、乾燥させるとのこと。この小屋の中で、葉を巻いて葉巻を作る作業を見せてくれた。住居と思われる建物は板張りで白く塗られ、オレンジ色の瓦屋根であった。周りには今の8月の季節のためか収穫の終わってまだ葉や茎が立っているトウモロコシの畑になっていた。七面鳥が2羽うろうろしていた。
タバコの葉を乾燥する小屋の中で葉巻を作る実演
ツアーの最後に、ビニャーレス渓谷を一望できるビュースポットのロス・ハスミネス展望台(Mirador Los Jazmines ジャスミン)に行った。展望台から眺めると、山々を背景に、緑の平原の中にヤシの木や低木の集まりが散在し、ところどころ緑の小山が立っているという非常に綺麗な景色を見ることができた。オレンジ色の瓦屋根で壁がなく風が通る休憩所の喫茶カウンターで、ツアー料金に入っているラム酒入りネクターをもらって飲んだ。妻はアルコールが飲めないので、ラム酒なしのネクターを飲んだ。ネクターは、甘すぎて、妻はもてあまし筆者におしつけてきた。
展望台の後、一路ハバナ市へ帰路について、午後7時過ぎにホテルに着いた。我々のホテルは、ツアー客の中で2番目に降りる番であった。降りる時にガイドのノイさんにお礼を言い、5クックのチップを渡した。
展望台からの眺め
※写真はいずれも2012年8月キューバにて撮影 [©️2012 Setsuko H.]